「胃がん撲滅を目指して」


稜北内科・小児科クリニック院長  犬童 伸行

昨年中央公論新社から「胃の病気とピロリ菌」という新書が発刊されました。著者は北大医学部教授の浅香正博氏で、彼は私の医学部の同期(何故か卒業は私が1年遅かったが)であり、日本のピロリ菌研究の第一人者です。

現在日本ヘリコバクター学会理事長であり、「ピロリ菌感染症はすべて除菌すべきである」というガイドラインを発表していますが、その理由について著書の中から紹介してみます。

ピロリ菌感染がわが国の胃がんの主要な原因であることを私たちの研究で確認できた。従って、広範な除菌を進めることによりわが国は胃がん大国から脱却できる可能性が高い。

現在日本では約6,000万人のピロリ菌感染者(ほぼすべてが慢性胃炎である)がおり、これら膨大な人数の除菌を行うと莫大な費用がかかる。そのため厚労省は慢性胃炎の保険適用に躊躇しているが、除菌により胃がんが抑制されるなら、胃がんの治療にかかっている年間約3,000億円の費用は年を追って大幅に減少し、結果的に医療費の減少をもたらすと考えられる。

除菌にかかる費用は、除菌前後の2回のピロリチェックと除菌の薬剤料で11,400円であり、とりあえず600万人が除菌を受けるとすると684億円かかることになる。

1年間で慢性胃炎から胃がんになる率は約0.5%であるから、除菌をしなければ600万人の集団から1年間に3万人が胃がんに罹患することになる。

これが除菌によって1/3に減少すると、胃がん一人当たりの治療費は約130万円なので130万円かける2万人で、1年間に260億円が節約できる計算になり、数年間で初期投資は回収できる。

また、仮に5年間で3,000万人が除菌治療を受けたとすれば、その費用は3,400億円となる。一方胃がんの発生率は1/3となり、費用も1/3となるので5年間の胃がん治療費1兆5,000億円は5,000億円に減少し、差し引き6,600億円が5年間で節減できることになる。

費用効果ばかりでなく、ピロリ菌除菌は「人の命を救う」という重要な側面がある。

わが国では毎年新たに約11万人が胃がんに罹患しており、そのうち約40%が死亡すると仮定すると、5年間で約22万人が亡くなる計算になる。ピロリ菌の陽性者の半数を除菌できれば、5年間で約7.5万人の命を救えることになる。


私としても1日も早くピロリ菌陽性の希望者全員が保険で除菌できるようになることを願っています。

投稿者: 道南勤医協 | 登録日: 2011年5月1日

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