健康あらかると「糖尿病医療の今昔」

内科医師 内山 清

はじめに

 糖尿病診療とのお付き合いも長くなった。100万人の病気と言われた時代から、今や1000万人の病気(予備軍を含めると2000万人を優に超す)の時代になった。その急速な増え方は現代文明の「進歩」と無縁ではない。食文化の変化と車社会のもたらす運動不足、様々なストレス社会のもたらした一種の社会現象ともいえる。
 一方で国民的課題ともなっている背景には、糖尿病が全身の血管病の最大の危険因子の一つになっていることがあげられる。糖尿病の血管病には脳梗塞や心筋梗塞などの元になる動脈硬化症と網膜症(失明原因)や腎症(人工透析の原因)などの細小血管症の二つの流れがある。こうした合併症をいかに予防し、また仮になってもいかに治療するかが国家的、医学的重要課題になっている。無論糖尿病にならないように予防的啓発もかつてなく行われている。

診断治療の発展

 今から40年ほど前、私が研修医時代のころは、糖尿病の診断・治療の検査指標は血糖測定しかなかった。その後青年医師の時代に糖尿病の指標にHbA1c(グリコヘモグロビン)が登場した。それは1、2か月間の平均の血糖コントロール指標として待望されたものであった。今では糖尿病の患者さん方にもおなじみになっているが、それが昨年新たな糖尿病診断基準の一つとして採用されたのも目新しいことである。ついでに触れておくと、このHbA1cの日本標準値がこの4月から国際標準値に転換され、0.4%ほど高く設定されることになるので、コントロール指標や診断基準で判断する場合注意が必要になる(当面従来の数値が併記されるので混乱はないが)。

薬物治療などの進歩

 インスリン製剤の進歩も目覚ましいものがある。昔は牛や豚の膵臓から取り出した動物インスリンが主に使われた時代もあったが、今は化学合成されたヒトインスリンが使われるようになり、最近では超速効型や持続型のインスリンや種々の作用を組み合わせた合剤が作られ、より本来の人間のインスリンの働きに近づいた製剤が日常的に活用できるようになった。糖尿病の種々の病態に見合った使い方が可能になっている。
 また薬物療法の進歩もこの10年くらいで様々な有用な薬剤が開発されている。従来主役であった膵臓を刺激してインスリンの放出を促した製剤自体の進歩もさることながら、インスリンの働きを助ける薬剤や、食後の高血糖を抑える薬、肝臓での糖の過剰産生を抑える薬物など多様な選択肢が可能になったことが特筆できる。ここ数年で使われるようになったインクレチン製剤も大いに話題になっている。副作用としての低血糖作用が少なく、血糖が高い時だけ膵臓のインスリンを調整するという大変合理的な薬として注目されている。またこのインクレチン製剤は膵臓の細胞を復活させる可能性も期待されている。
 同時に、各種合併症に対する治療の進歩も目覚ましい。特に脳や心臓の血管障害に対する血管外科的進歩には目を見張るものがある。

それでも基本は昔も今も変わらない食事療法、運動療法

 どんなに薬物が進歩していても、肝心な基礎療法および病気の予防は健康的食習慣や運動習慣にあることは変わりがない。このことはどういうタイプの糖尿病でも基本中の基本であることを肝に銘じよう。

投稿者: 道南勤医協 | 登録日: 2012年4月1日

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