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人にとって大切なこと~脳の仕組みから

医師 大城 忠

認知症が改善した!
 人が元気に生きていくために、「絆」「ネットワーク」「仲間」などと表現される人と人の関係が強調されています。私達の病院でも、内科疾患は治癒したが元気の出ない認知症の患者さんが地域のグループホームに移ってからみるみる元気になり、認知症が改善したことを聞くことがあります。魔法の話のように感じるものです。直接会いに行ってみると、良くなった理由は人と人の関係の質の高さ、関わる時間の長さなどによるものが大きいことがわかります。患者さん同士の交流、職員との交流です。
 なぜ、人間関係でこれほどまでに元気さが変わり、時には記憶力まで改善する、認知症が改善するなどという現象が起きるのか? 最近脳の仕組みが研究され、解明されています。脳の神経細胞や、脳内の物質など、いかにも「もの」を扱うような違和感、尊厳を無視するような感を持つ場合があります。人のこころを冷静に考えるために参考になります。

脳は発達してきた
 人も動物も眼、耳、触覚などすべて感覚を通して外界の情報を脳の中に取り入れます。取り入れた情報からいろいろなことを整理し、何が大切かを判断し、体の動きはすべて脳からの命令で動きます。何が大切かを決めるとき、特に人間は他の動物よりも精密に発達した大脳で判断します。人類はその発達歴史のなかで、自分を犠牲にしても相手を大切にし、成長とは何かを考えるなど、他の動物とは異なる思考とか、行動をとるようになりました。他の動物は生命や情動のほうが強く意思、行動を決定します。食べ物を獲得し、危害を防止し、子孫を残すためには相手の苦痛をかまわず何でもします。人間はそうではないことを目指してきました。

 しかし、発達したはずの人間の思考、行動もまた、間脳、脳幹という生命や情動に直結した部分が大きな影響力を持っています。多くの文学に記載され、戦争で報道される人間の残虐さ、冷酷さ、日常的に楽なほうに判断する傾向など、私達人間は色々な弱点を持っていることが脳の仕組みからも理解できます。気をつけないと、時には他の動物以上に残酷になれるのです。

 人間の脳は何10億という神経細胞の集まりです。それぞれの神経細胞は記憶とか、運動とか、感情とか役割を持っている。神経細胞は相互につながり、ネットワーク(網の目上のつながり)を形成しています。頭が良いとか、運動能力が優れているとかは、神経細胞の数が多いかどうかだけではなく、細胞同士のつながりの強さや広がりが大きな要因です。刺激が強く、頻回なほど、神経細胞通しのつながりは強く、広くなるということがわかっています。それが頭が良くなる、運動神経がよくなるということです。
人にとって、脳にとって大切なことは? 

 記憶を良くする方法とか、認知症に良い方法とか、ずいぶん、本屋さん、マスコミに登場するようになってきました。確かに加齢と共に人間の脳神経は減少し、機能は低下します。そのための工夫は良いことです。しかし、人にとっても、脳にとっても生きた人間どうしの五感を通した心地よい交流が最も重要なことはまちがいありあません。ひとりぼっちで本を使って脳を鍛えるよりも、友人や家族、職員との心地よい交流が安心して周りを見る余裕、判断、記憶など新しい脳細胞間のつながりを生みだします。冒頭に書いたグループホームでの暖かい交流で認知症が改善したことは最近の脳の勉強からも理解ができます。

 私も、脳の勉強をしながらこの稿を書きながら思っています。「患者さんを知るためにもっと患者さん自身と話をしよう、もっと質の高い、安全な病院にするために友の会の人や、他の病院の話を聞こう、まだまだ沖縄の両親は元気だが、良い息子だと記憶してもらうためにもっと電話をしよう、もっと思いやりのある言葉を話そう。」と。

2005年12月 第261号より

投稿者: 道南勤医協 | 登録日: 2006年02月16日 |

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